長崎県の小値賀町にある小学校と中学校。周辺の島や村との統廃合の歴史のなかで、前身の学校も含めると約90年の歴史を持ち、小値賀島の教育を支えてきた。2007年からは長崎県立北松西高等学校も含めた3校で連携型小・中・高一貫教育を実施している。2015年に待望の給食制度が始まったばかりで、食育が注目されている。
東シナ海に浮かぶ小さな島はすっかり秋の気配です。
虫たちが秋の夜長を大音量で鳴いています。柿も美味しそうに色づき始めました。
今回は、斑島や小値賀島の「食生活」について、お話しさせて頂きます。島の食生活は「自然に恵まれた環境の中、シンプルで健康的な食材ばかり」と思われがちですが、実はそうでもありません。平成25年の特定健康診断では驚きの結果が出たそうです。
コレステロール値、尿酸値、メタボ予備軍…。
この3つの項目でなんと小値賀町は長崎県ワースト1位だったのです。
小値賀町は新鮮で美味しいお魚がたくさん獲れます。主食はお刺身!!それくらいみんなお刺身が大好きです。そのぶん、刺身醤油で塩分を沢山取りますし、魚の内蔵や卵の煮込みも大好物。これらがコレステロールや尿酸値を上げる原因となっているのです。それと忘れてならないのが「ウニ」です。
毎年5月〜6月にかけて磯の解禁となり、ウニがたくさん獲れます。このウニをウニご飯にして食べるのが島の人たちの何よりの楽しみなのです。一度には食べきれず、みんな瓶詰めにして冷凍保存するので、この時期になるとウニ専用の瓶が商品棚に並ぶ程です。ウニは、コレステロールが多い食品として知られています。高い尿酸値は痛風の原因となります。
さらに、小値賀町の方々はお酒も大好きで、行事ごとや集まりがあるとすぐに長崎のおいしいお酒が酌み交わされます。お酒の量も診断の結果の原因のひとつだと、保険師の方が話しておられました。
この恐ろしい結果を踏まえて、島の人たちが「おいしいもの」と「体にいいもの」の正しい共存を意識するようになったように感じます。おいしいものがたくさんあるからこそ気をつけなければいけないこと、ファストフードに頼りがちだからこそ気をつけなければいけないこと、食のバランスはそれぞれなんですね。都会暮らしだから…とか、自然豊かだから…とかではなくて、どこで暮らしていても、栄養のバランスをしっかりと気にかけて、「正しい食生活」を意識しないことには、健康を維持しつづけることは難しいのだと、改めて痛感しました。
この島で子供を育てていく私にとっても、「食育」は、常に大きな課題です。少し前まで、長崎県内で唯一給食が実施されていなかったのが小値賀島でした(わたしの住む斑島には現在学校はありません。斑島の子供たちは橋を渡り、小値賀島まで登校しています)。そしてその給食が、2015年6月からようやく実施されました(ちょっとした歴史的事件です!)。学校給食化は随分昔から何度も島の議題に上がっていたそうですが、いろいろな事情があって、なかなか実地に至らなかったそうです。
小値賀島では小学校と中学校が同じ校舎の中にあります。給食制度は両校に同時に導入されました。この小値賀町小中学校の給実施に伴い、回覧板で調理員の募集が回ってきました。私は小さな子供がいたので職場に迷惑をかけるのではないかと応募を悩みましたが、駄目もとで面接を受けると、なんと採用となりました!
島に来て初めて母となり、しかも仕事を始めることになって不安もありましたが、主人ともよく相談して、やってみよう精神で挑戦することに決めました。社会人になる前に調理師の免許を取得していたことがココにきて役に立つとは…。
給食初日にはテープカットがあり、小さな子供達が白衣を身につけて大きな、大きな声で「美味しい給食いただきます!」と言ってくれて、感動しましたし、この歴史的な給食化に立ち会えて本当に嬉しかったです。
新しい小値賀町小中学校調理場は何もかもがピカピカでした。自動式の洗米機や大きなスチームコンベクション、真空冷却機や50L以上の回転釜も3つもあります。真空冷却機は私も初めて見た機械で、圧をかけて真空にしてから、茹でたり蒸したりした野菜などを短時間で冷却します。短時間で冷却をすることにより細菌の増殖を抑え食中毒を防止してくれます。真空冷却機で冷却した野菜は全くクタっとしておらず、生野菜のパリパリ感こそありませんが、シャキシャキとして野菜をとても美味しく頂けます。
給食では基本的には生野菜や生魚を食べる事はありません。(こんなに新鮮な魚が自慢の島でも)全て加熱処理をします。生で食べるのはミニトマトや果物ぐらいですが、この時は塩素消毒を行います。万が一のこともあってはいけない給食では、ここまで徹底した管理が必要になるのです。
調理工程によって部屋をわけますし、各調理、洗浄過程で靴やエプロンも交換をします。その都度しっかり手洗いです。食材によって使用するまな板や包丁も決まっています。調理も全て温度管理をして記録を残します。木製の調理器具は不衛生の為使用出来ません。
こうして、最新の注意を払って子供達の食の安全を守っているのです。
私が子供の頃に窓から覗き見た給食室のイメージとは異なる世界がここにはありました。最初に受けた衛生講習の先生が言われていた「給食は料理ではありません」という言葉の意味がよく分かりました。これだけの完璧な衛生管理を実際に目の当たりにすると、子を持つ母親の立場としても安心できます。
島で小中学生のお母さんに会うと「子供がとっても給食が美味しいと喜んでいて楽しみにしています」「これまでお弁当だと野菜と言えばミニトマトやレタスぐらいしか使えなかったから、野菜たっぷりの給食をありがとうね」と感謝されます。こんな風に言ってもらえたら毎日数十キロの野菜を切る事も苦ではなくなります。
先日、ピタパンが給食に出た日がありました。ハンバーグとボイルキャベツをはさんで食べます。デザートはバナナでした。ある小学生の女の子は、その日の給食の美味しさを延々とお母さんに話したそうです。島では食べられる食材が限られますので、ピタパンはよっぽど衝撃的だったのでしょう。
子供達の成長の源となる美味しいごはん。そしてこれまで知らなかった食文化との出会い。この島の子供たちが毎日食べる給食に、私は強い責任を感じながら働いています。
さて、島の畑は夏野菜から冬野菜へと衣替え中です。夏の野菜達には「ありがとう」と「さよなら」をして、次は大根、白菜、カブにネギ。種まきの時期です。我が家ではゴーヤやピーマンやししとうがまだまだ穫れますが、土作りの為に近々倒す事にします。
今年はゴーヤのお漬け物が大ヒットしました。お裾分けした方からはレシピを必ず聞かれた程です。
大原家のゴーヤのお漬物、レシピをご紹介しますね。
1時間漬けただけでも美味しいですし、1〜2日漬けると更ににんにくの風味が増します。ゴーヤの季節、少し過ぎてしまいましたが是非お試しくださいませ。
Comment from the Curator
島の食生活はホントにバランスを気に掛けないとついつい(美味しくて)偏りがちになるのですね。台所に立つお母さんの役割はかなり重要なんだと思いました。でもどこに住んでいても「気に掛ける!」このレベルで充分な健康志向だと思います。あまり過度になり過ぎるとちょっと窮屈な気がします。食べるコトを楽しみにできないなんて寂しいですから程々にしましょう。笑。
この記事を読んで子供の頃の給食のオバちゃんを記憶の片隅か引っ張り出そうと思ったのですが、遠すぎて食べたモノしか出てきませんでした。1ヶ月の献立のプリントを月初めに渡されて、毎日それを見て学校に行ってました。
振り返るとやっぱり学校に行く楽しみの一つだったな~っと、小値賀島にやってきた
給食は子供達にとっても、歴史的瞬間はけっして大袈裟な表現ではないですね。
今回も記事に掲載している写真以外にもたくさん小値賀島の秋の写真を送ってもらいました。ホントにキレイな景色ばっかりです。写真を何枚も見て、島の話を聞いてるうちに、いつか必ず行ってみたい場所になっていました。
そのときは小値賀町のみなさま、よろしくおねがいします。
(次回はお味噌作りのお話が聞けます。11月3日掲載予定)
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7月15日公開
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10月1日公開
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11月3日公開
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11月17日公開
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