家が完成するのは、新築が終わったとき。
あるいは、お引っ越しをして荷物を運び入れ、家具や衣類やこまごましたものを、所定の位置に配置したとき。
それを「当たり前」としてずーっと過ごしてきましたが、「あれ?そうじゃないかも?」と思うようになったのは、インテリア雑誌の取材で海外にも出かけるようになってからだったと思います。
1990年に出版社に就職し、インテリア雑誌に配属された1995年ごろはまだ雑誌の売り上げが好調で(いま振り返ると、そこをピークに下り坂になるのですが)、2000年くらいまでは、海外のインテリア実例を取材するチャンスが、結構ありました。
ロンドン、コッツウォルズ、バンクーバー、ニューヨーク。変わったところでバリ島でも住まいの取材をしました。そこで出会った人たちは、みなインテリアが大好きで、したがってDIYも内装のアレンジ替えも大好き。「次は、壁をこんな色にしてみたいと思っているのよ」「庭に新しい小屋を建てようと思って」という話がふつうに出てきて、とても楽しそう。欧米の人にとっては、家ってつくり続けるもんなんだなぁ・・・と思ったものです。
その後、住宅雑誌を手がけるようになり、主に建築家さんの取材をするようになって、別の意味で「家の完成はいつだろう?」と考えるようになりました。それは、一戸建てには修繕が欠かせない、ということを実感するようになったからです。
建築家さんの建てた家を取材するとき、たいていは建築家さんが同行してくださいます。そこで施主さんは、私たち雑誌の取材を受けながら、建築家さんに対しては細かい家の不具合のことを相談したり、修繕の仕方を教わったりされていたのです。
たとえば、「デッキの一部が傷んできたみたい」「無垢材の引き戸の動きが、どうもよくない」などなど。建築家さんは丁寧にアドバイスしたり、修理の手配をしたりします。よく「家づくりを頼む業者さんとは長い付き合いになるから、相性も大事」と言いますが、本当に二人三脚で家に手入れをしていく感じです。
一戸建てに限らず、マンションだって「手入れ」の感覚は必要です。たとえば、給湯器はわりと寿命が短くて、早いと10年くらいで取り換えの時期がきます。浴室の換気扇も壊れることがありますし、キッチンやユニットバスも傷みが目立つと取り換えたくなります。
それがリフォームのきっかけになったりするのですが、「完成したら、その後はノーメンテナンス!」という住まいは、一戸建てでもマンションでも、ほぼありえないのです。
だから、『予算内で賢く家を建てる178のコツ』というムックを編集したときは、修繕のことを視野に入れる、というスタンスで記事を書くように心がけました。建物が完成したら、それまでの「建てる」「つくる」ではなく、そこからは「手入れする」という家づくりが始まるわけです。
住宅ローンを払いながら、10年後の設備の取り換え、20年後の内装・外装のリニューアルの準備をする―――。
そう考えると、新築時・リノベーション時に、なにもかも完成させる必要はないのかも。『予算内で賢く家を建てる178のコツ』をつくり終えたとき、私はそう考えるようになっていました。ローンを払いながら修繕の費用も積み立てなければならないのだとしたら、新築時に完成させない部分をつくって、資金にも余力を残してもいいかもしれない、と思うのです。
自分で楽しみながら、内装の一部はインテリアとして気軽に変えていく。たとえば、壁はペイントがかなり一般的になってきて、良い塗料も開発され、比較的DIYしやすい部分です。初めはビニールクロスで安価に仕上げておいて、汚れが目立ってきたり、大胆に模様替えしたくなったときに、好きにペイントする。
ちょっと予算をかけて珪藻土(けいそうど)や漆喰(しっくい)を塗ってもらう。あるいは、20年くらいで寿命といわれる住宅設備は、新築やリフォームのときはそこそこのグレードのものを選んでおく。
「予算が足りなくて、できなかった」ではなく、「インテリアの楽しみとして、残しておいた」。
そんなコストの考え方もあるんじゃないか、と思います。中古住宅をリフォームしたわが家の場合、古ぼけてはいるけれど機能的に問題ないドアをひとつ、そのまま残しました。いまはペイントしてみよう!と思っていますが、いずれはアンティーク調のドアにつけ替えるのもいいな~、と夢想しています。このドアは、愉しみのひとつなのです。
「家の完成」ということで言えば、もうひとつ、気になっていることがあります。それは、壁紙が黄ばんでいてもはがれかけていても替えないで、あるとき建物全体を取り壊して建て替えたり、リフォームして一新する、というケースも少なくないのでは?ということです。
建て替えやリフォームがいけない、というのではありません。「壁紙が黄ばんでいても替えない」というのが、むしろ気になるのです。日本の住宅で一般的な塩ビ製の壁紙は、1m500円くらいから手に入ります。
安価に供給されているのは、実は賃貸アパート用として作られたもの。入居者が変わるたびに張り替えをすることが多いため(最近はクリーニングで済ますケースもありますが)、2~3年で替えることを前提にしている商品なのです。
それを10年も20年も張り替えないでおくことに、そもそも無理があります。みすぼらしい壁を我慢するのは、なんのためでしょうか? 前回、わが家のリフォームの話をしましたが、躯体は古くても内装を一新すれば、家はすっかり新築のように変わるのです。
前回の出来さんのコメントにもありましたが、いまの暮らしを楽しむことも大事。「いまの暮らしを楽しむ」の部分は、こまめなインテリアの模様替えで実現できるのでは?と思います。壁などの内装を含め、家具やディスプレイなどは、暮らしをリフレッシュするために気軽に変える、というのが、正解なんじゃないかな。そのほうが、楽しいしね!
住宅設備の交換や細かい修繕は、否が応でもやってきます。「新築時が完成」と思っていると、不具合や経年劣化はすべてマイナスになってしまいますが、「家は完成しないもの」とはなから気楽に構えていれば、何か不具合が起こっても「よりよく変えるチャンス!」と思えるのではないかと思うのです。
Chat with the Curator
<DEKI>2015.11.16
藤岡さんのコラムは、毎回、読み終えた後にポジティブな気持ちになります。
「家づくり」といったタイトルの本を読みふける(?)と、「建築家にお願いするしかイイ家はできないんじゃないか!」とか、複雑に考えすぎて煩わしくなるときもありました。実際の作業のどうこうも大切ですが、思考のスイッチを切り替えてみると、煩わしさも楽しさに変えられる気がしますね。「家は完成しないもの」。このフレーズを掲げたら、あとは怖いモノがない気がしてきました。笑!DIYが普及して(し過ぎて?)、閉鎖的な建築業界にグィグィとエンドユーザーが入ってきて、そこに業者がどう寄り添っていくかを模索しているような時代です。デザインものの床材やクロスも、専門メーカーが直接エンドユーザーに販売する市場も珍しくなく、業者からの提案任せにするだけでは物足りなくなっていくと思います。このあたりの宝探し要素も無限大にあるので、藤岡さんのおっしゃるように、何か不具合が起こっても「よりよく変えるチャンス!」と考えるのはアリ!ですね。
2015.11.22
2015.12.1
<DEKI>
ホントに「ゆるく」ってコトが、もしかしたらいちばん必要かもしれませんね。
藤岡さんがダイニングキッチンの柱にブリックタイルを張ったのと同じように、私もお店のキッチンは陶器のシンクを木台にはめ込んで、仕上げはなしにしてもらい1.5角の白いタイルを自分で張りました。仕上がったときの満足感は味わいました。
ですが、「もし自宅のキッチンだったら、衛生面のこともあるから絶対に職人さんにしてもらう!」と心に決めました。そんな自分なりの判断基準も備わっていきます。失敗しても、自分のしたことには寛大になるところがDIYの利点ですね。あと、子どもやペットにも寛大ですね。家具なんて「無垢にするんじゃなかった」って思うくらいガジガジされています。でもその傷さえ愛おしいから、もぅ溺愛ですよ。笑。
「家は完成しないもの」コレが浸透したら、インテリア全般にのびしろができていくような気がしますね。キャンペーンしましょうか!!
2015.12.7
References & Thanks to
1
7月26日公開
ハウジング誌『PLUS1 LIVING』の元編集長が考える「居心地のいい家」。機能性を重視されがちな新築マンションで、軽やかに「いい按配」のリフォームを施す秘訣とは?
2
10月13日公開
自分の住まいを持つとき、様々な条件や制約のなかで、計画的に「満足度」を考える。藤岡さんの実体験に学ぶ、欠点も愛着に変える住まいとのクールな付き合い方。
3
11月10日公開
あえて完成させない家づくり。建物ができたら、そこからDIYで楽しみながら手入れしていく。そんな欧米では当たり前の考え方を参考に「家の完成」について考えます。
6
2月23日公開
味わいがあるけど手入れが大変そうな自然素材。性能や費用だけでなく「衛生観念」を基準に無垢材と新建材を使い分けてみると、無理なく住まいの経年変化と付き合えるでしょう。
7
3月22日公開
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4月26日公開
照明器具選びは光そのものをデザインすることでもあります。思い描いた光の雰囲気を正しく伝えるためには、照明の知識は然ることながら、工務店との綿密なコミュニケーションが必要です。
9
5月31日公開
自分の好みを周りの人に正しく説明できますか?空間の「好き」をビジュアル化したり言語化したりすることで、家づくりに携わる人たちにより明確なイメージを伝えられるようになります。
10
6月29日公開
かっこいい家、おしゃれな家、と思わせるために必要な鍵はやはりインテリアにありました。印象的な「見せ場=フォーカルポイント」を作ることで空間がぐっと引き締まります。
11
7月26日公開
もう一度、家を建てるとしたら…。いまの暮らしの中で感じる不便さや不自由さこそが理想の家づくりのヒントになります。愉しい家にするために必要なふたつのポイントをもう一度おさらいしましょう。
12
8月30日公開
連載最終回。「本当にいい家」とは何か?全12回のコラムを通じて藤岡さんが考察してきた理想の家づくりについて、フクダ・ロングライフデザインの福田社長にインタビューしました。