前回のコラムに、エディター出来さんからコメントをいただいて家づくりが成功するかどうかは「住まいへの満足」との関わりが大きい、と感じたので、今回は「住まいへの満足とは?」について書いてみようと思います。
考えてみたら「自分で住まいを選ぶ」という行為は、ある程度、大人にならないとできない。せいぜい早くて、親元を離れてひとり暮らしの部屋を借りるときでしょうか?
私は大学に入るときに親元を離れましたが、大学の寮で2年間、その後は親の方が千葉に引っ越してきたので親元に戻り、自分で探して部屋を借りたのは、就職する前の春でした。
それからは、友人との二人暮らしを2回、結婚して夫婦で借りた部屋・・・、基本的には賃貸住まいで、住んだ物件は5つです。どれも、そのときに「ベスト!」と思って借りた部屋ですが、どこか「仮住まい」の想いがなかったわけではないですね。「インテリア(内装)は自由にできないし・・・」という不満は、いつもあったように思います。
そんなこんなで40歳を過ぎ、「今、家を買うより、退職するときにまとまったお金をつくって家を持とうかな・・・」と考え始めたとき、ひょんなことから中古住宅を買うことになりました。そのときには「定年を待たず、ちょっと早めの50歳で会社は辞めよう」と考えていたので、ローンを組めるうちに・・・という想いも頭の隅にあったかもしれません。少し前から貯金をがんばっていたおかげで、なんとか頭金とリフォーム代は出せそう・・・という資金もありました。
それにしても予算には限りがあります。
不動産屋さんでたくさん物件の図面を見せてもらいましたが、条件に合うものがあまりにも少ない。絶望しかかっていたとき、出会ったのが今住んでいる物件です。
「この予算では、これくらいの家しか買えない」
それが十分に頭に入っていたので、11坪の極小敷地で、しかも変形の三角形。築40年超の鉄骨造。基本は北向き。という物件でも、「見てみよう!」と思いました。
まだ前のオーナーさんが住んでいらっしゃる状態で内見をさせていただき、かなり生活感の漂う(失礼!)建物内に入ったとき、意外にも私が感じたことは「ここ、リフォームしたら変わる!」というワクワクした気持ちでした。
これまでは、とにかく明るさにこだわった物件探しをしていたので、北向きがとても心配でしたが、窓が大きく多いためか、思っていた以上に明るく、いちばんの懸念材料だった三角形の敷地は、感心するほど内部の空間をうまく使っていました。
「これ、良くなるかも!やりがいがあるじゃない?」
いま振り返ってみたら、ただの好奇心ですね(笑)。でも、その気持ちが、いろいろな懸念材料を乗り越えてしまったのは、事実です。
住まいを持つときに、無条件で選べるという人は、おそらくほんの一握りだと思います。予算があり、場所の制約があり、家族の思惑があり、将来の計算もあり・・・、さまざまな条件のなかで住まいを選ばなくてはならない。自分の経験を振り返ってみても、そのなかで「何をもって満足とするか?」は、やはり自分で決めていかなくてはならないのだと思います。
さて、家の購入からリフォーム完了、お引っ越しまでのあれこれは、『PLUS1LIVNG』で記事にしたこともあり割愛しますが、実際に住み始めて3年のいま、感じていることを書いてみたいと思います。
間取り変更と設備の取り換え、内装を全部行うフルリフォームだったので(1200万円くらいかかりました)、築40年超の古さはまったく気になりません。外装もきれいに塗り替えたので(これに結構、費用がかかりました)、1階の貸店舗にはすぐに店子がつきました(言い忘れましたが、店舗併用住宅です)。
それまで取材で培ってきた知識をつかって(笑)、内装はシンプルに、安価でありながら部分にこだわって自分好みに仕上げました。たとえば、壁と天井は白のビニールクロス1種で統一してコストダウン。そのかわり、ダイニングルームは無垢のパインのフローリング、階段と居室はウールのカーペット敷きと床材にはコストをかけました。
壁は自分で塗り替えたりもできますが、床は工事がたいへんで、なおかつ素足でふれる場所。面積が広くて、インテリアを決める要素でもあるので、こだわりたかったのです。無垢のフローリングはすぐに日に焼け、傷もつきやすいし、ウール・カーペットはとにかく髪の毛のお掃除がたいへんです。
ですけれども、どうしてもやってみたことだったので、まったく気にならないのです(笑)。安定した光をとりこんでくれる北向きの窓は、実は冬の寒さもたっぷり取り込みます。本来ならは、断熱効果の高い二重窓に全部を変えたかったのですが、これはコストがかかりすぎるので断念しました。
冬の寒さにはいまだに慣れません。
ですが、夏の涼しさは、住んでみてわかったうれしいことでした。2つしかない南向きの窓と、北向きの窓は、私の住む地域では朝夕に涼しい風を通してくれる、非常によく働く窓だったのです。
いいところもあれば、悪いところもある。
私たち人間とまったく同じ。凸凹がありすぎて、個性的すぎる住まいと付き合っていると、「こんな家なんだけど、好きなんだよな~」という気持ちがわいてきます。
いまの住まいに満足している私ですが、実は、これを「終の棲家」とは考えていません。敷地11坪の狭小地ゆえ、4階建ての2~4階部分に住んでいて、階段を上り下りできなくなれば、トイレに行くこともお風呂に入ることも、いやいや外出すらできない。超バリアフル住宅なので、とてもとても死ぬまで住むことなんて考えられないのです。
もちろん、そのことは購入時に承知済み。
住んでも15年。と割り切っての購入でした。
だから、いろいろなことを想定しています。売却はできるか、別の資産運用法はあるか、ローンは完済できるか・・・。そういう意味では、私と住まいとの関係はとてもクールなのです。欠点も含めて愛着を感じているけれど、「一生モノだからね!」といった思い入れはない。ひょっとしたら、だからリフォームの際に過度に入れあげる(?)こともなかったのかもしれません。いずれは別れる運命にあるのだから、「こうでなければ!(満足できない)」ということもないのです。
考えてみれば、住まいに「こうでなければ!(満足できない)」という条件って、どれほどあるでしょうか?私の場合は、地震から守ってくれるだけの強度があって、15年くらいの使用に耐えられて(この2つは建築士に診断してもらっています)、将来、売却できる可能性がある、という3つくらいかな。
内装や設備はお金さえあればいくらでも変えられるってことは知っていますし、暮らしの快適度はインテリアでなんとでもなる、と思っていますからね。前回もお話しましたが、住まいには、建物というハード面と、インテリアというソフト面があります。この2つを切り分けて考えられるだけで、「住まいの満足」って変わってくるのではないか、と思うのです。
Chat with the Curator
2015.10.19
<DEKI> 「住んでも15年」という言葉の潔さに、とてもグッときました。15年先のことも見込んで今の住まいがあることが羨ましく思います。 どんなに素敵な家を建てても、その後の生活になんらかの変化が訪れることをシミュレーションすることが大切なのですね。 「住まい」に求めるモノが多すぎると、それに伴って支払いもかさんでいくのは当たり前のこと! まずは、3つくらいの希望を考えるところから始めてみるのが良さそうですね。 建物というハード面と、インテリアというソフト面、この2つを切り分けて考えてみる。「家づくり」にはハードルがいくらでもある分、工夫する部分もたくさんあるということですね! 今回の藤岡さんのお話は、「家づくり」において柔軟力を持つ大切さがわかりました。
2015.10.26
<DEKI>
今回は「住まい」の決断に役に立ちそうなヒントがいっぱい詰まっている気がしました。「問題を分ける」「それぞれに対策する」という頭をキッチリ整理整頓することが、ホントに1番最初の課題でもありますよね。藤岡さんのお話がとてもわかりやすくて、もっと早くに知っておきたいことばかりでした。藤岡さんのご両親が何かをきっかけに賃貸にして移転された柔軟力は素晴らしいですね。
私の両親は、新興住宅に「夢のマイホーム」という時代にそのまま絵に描いたように家を買いました。掘り込みのガレージの上に立つ家の玄関は、15段の階段を上らないと扉まで辿り着けません。見晴らしが良くて景色は素晴らしいです(特に夕暮れが)。けれど老夫婦にとってこれから先は厳しいことだらけです(車がないとコンビニまでも行けません)。その不便さと背中合わせの慣れ親しんだ環境から離れたくないという気持ちが痛いほどわかります。
私自身のコトで言えば、早い段階でローンを終わらせたい思いで繰り上げ返済をスローガンに掲げています。笑!年老いたときに少しでも選択肢を増やすためです。
住居選びは、市内から少し離れてリノベーションする予算を計算して選んだ新築マンションでした。一人暮らしでの安全性と利便性で選びましたが、リノベーションすることで、欠点である無機質な部分を取っ払って、心地イイ空間に仕上げることができました。現時点ではこれから先のことはまったくわかりません。ですが、今は家にいる時間はかなり充実した暮らしを楽しめています。
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