こんにちは。フリーエディター&旅するブログの先生、「編集脳」アカデミー主宰の藤岡信代です。老舗出版社の編集者として22年、インテリア雑誌の編集長を5年務めていました。収納企画はお手のもの、なのに、自分のものはちっとも片づけられない(笑)。その理由を、片づけのプロの実例を取材しながらひもといています。
工務店さんの主催の家づくり講座で収納をテーマにしたとき、「下着は洗面脱衣室にしまうのがおすすめ」とお話しして、すごく驚かれたことがあります。私も昔からそうしていたわけではありません(そして、いまの住まいでは残念ながらできていません)。インテリア雑誌で収納の取材をして、その便利さを知ったクチです。
以前にも食器収納を見せていただいた兵庫県宝塚在住の暮らしのアドバイザー、土井けいこ先生のお宅は、衣類収納もさまざまな合理性と工夫の宝庫なのですが、最初に取材させていただいたときは、「ふつうはここに収納しますよね?」という常識をことごとく壊してくれました。たとえば、ご夫婦の衣類が寝室のクローゼットではなく別々の場所に収納されていたり、ご主人の衣類は廊下のクローゼットに収納されていたり(今はさらにまた変化しているそうですが)。
下着はタオル類とともに、洗面脱衣室に収納されていました。理由は、「そこに収納したほうが便利だから」。
主寝室のウォークインクローゼットには夫婦ふたりの衣類が全部、しまってある。というのは、実はハウスメーカーやマンションデベロッパーの“提案”でしかなく、実際には、その場所ではないほうが便利、ということもあるわけです。土井先生の場合、ご自身の仕事用の衣類は、仕事に出かける前に着替えるのに便利な場所、という視点で収納場所が選ばれていました。
同じ理屈で、下着を着替える場所は、断然!洗面脱衣室なのです。
そう考えてみると、「下着を寝室(個室)に収納する理由」というのが、とっても曖昧に思えてきます。シャツやズボンなら個室で着替えることもあるでしょうけれど、下着を着替えるのはどう考えても洗面脱衣室なわけです。お風呂に入る前に脱いで、お風呂から出たときに身につける。お風呂場に近い場所にあれば、ストレスフリーですよね。
でも、私がそうであったように、せっせと「寝室(個室)から着替えを洗面脱衣室に運ぶ」という作業を疑いもなくしている人がほとんど。下手をしたら、洗濯物を畳んでわざわざ遠い寝室まで運んで、それをまたわざわざお風呂場まで持っていって…と、無駄な往復をしている。この事実に気づいたら、結構、衝撃的ではないですか?
土井先生はそもそもいつから下着を洗面脱衣室に収納しているのでしょうか?
「始めからです。整理だんすを含めて家具を持ちたくなかったので、衣類の収納場所に押入れを使っていました。洗面脱衣所から押入れまでの動線がよくなかったこともあり、下着類を狭い洗面所に何とか収納していましたね」土井けいこさん
始めから…ということは、親元を離れて一人暮らしを始めてからということですね。整理だんすを持たないと決めたことで、整理だんす⇒寝室に置く、という固定観念もなくなったのでしょうか。この、固定観念というのが、私は結構、曲者だと思っています。土井先生の場合、制約の多い場所での暮らしの経験が、固定観念にとらわれない収納方法につながったようです。
洗面脱衣室の収納の工夫について尋ねてみました。
「19年前の入居当時は、視覚的にバランスよく収納を配置するのに苦心しました。スペースは十分なのですが使いにくい。洗濯機の位置が制約になって収納家具の配置がむずかしかった。見た目のバランス優先で、突き当りにすき間収納を並べたことで結果的に動線もまっすぐになり、快適な洗面&脱衣&洗濯スペースになりました。
25年近く使う高さが78cmの隙間収納家具は、幅16cmが4本で、引出しは全部で12個。幅24cmが3本で引出しは全部で9個。基本縦列で人別に使っています。靴下、ハンカチなど使う人が必要と思うものを使いやすいように自主管理。引出し内に収まるように収納物の点検も自主管理。季節外のものは洗濯機の奥の引出しに収納したり、引き出しを厚紙で手前と奥に仕切ったり、深さも厚紙で二段にしてしまい分けたりしています。引出しには、下着のほかに洗濯用品、洗濯に使う消耗品のストックなども収納しています。
隙間収納の上には、仕分けしやすく洗濯脱衣かごを二つ。最近の工夫で、浅いかごに着替えを収納。朝パジャマから着替えるのに、クローゼットまで取りに行かずにサッと着るものが手にできるようになって便利になりました。お風呂あがりに着るパジャマやタオルは棚の上です。最近までパジャマやタオルは入り口ドア近くの既存の棚に収納していましたが、洗面所突き当りの棚に集約して管理しやすく改善。
かごを載せた棚は、入居当時(22年前)突っ張りポールを2本渡して収納スペースを作りました。タオルはそうめんのふたを敷いた上にのせています。棚の下は洗濯ハンガーの収納場所。棚の手前にポールを段違いに3本自分で取り付けて、雨の日の洗濯干し場所に使っています。ハンガーのまま放置しても雑然としません。下着類もふだん着も乾いた洗濯物の片づけまで、一連の動作がコンパクトでとてもラクです」土井けいこさん
以前の食器収納の回でも感じたのですが、土井先生の発想には、「ものは使う場所にしまう」ということが徹底されている、と感じます。
それに対して、私を含めほとんどの人は、いちいち使う場所にものを運んでいる。それが「めんどくさい」を産み、「元に戻せない」を産み、「片づかない」につながる。それなのに、延々と運んでいる……。
これ、なんとかしたいですよね?
土井先生の洗面脱衣室には、もう一つ、こんな工夫も隠されていました。
「もう一点、洗面所には住み始めからの工夫があります。入口ドアを開けたときドアと壁の10cmのすき間を使って、壁に市販のポールを部品で取りつけ、繰り返し着るふだん着の引っかけ収納に使っていいます。このポールのおかげで脱いだ服が散らかりません」土井けいこさん
繰り返し着る服問題!
これ、どうやって解決していますか?
大きな声では言えないけれど、夏場をのぞいて、普段着は結構、繰り返し着てから洗濯することがあります(なんとなく衛生上どうかな?なんて思うから、わざわざ言わないですけど)。その服の置き場は、実は工夫が必要なんですよね。クローゼットやたんすには戻したくないし、といって置き場がないと困るし。
どこで着るか?を考えたら、洗面脱衣室は、いい選択なのです。
洗面脱衣室に下着を収納しない理由は、もう一つ、はっきりとあると思います。それはスペースのこと。日本の住宅は、お風呂場の近くに衣類をまとめて収納すると便利、という発想がないことが多い。洗濯機はお風呂場のそばに置くことを考えれば、本当はしまう手間も少なくできる脱衣室が便利なのに、なぜか衣類収納は寝室とセット。洗面脱衣室は空間も狭いし、収納が十分にないことが多い。
「ここに置きたい」と思っても、スペースがない。あるいは収納が作られていない。ほとんどの人が、下着収納をどこにするか考えないのは、そのせいだと思うのです。
土井先生だって、そんな経験はしているはず。「収納場所がないときは、どうしますか?」と尋ねてみると、
「見つけます。
30数年の間に7つの住まいを経験。制約だらけでいつの間にか工夫するのが当たり前になっていました。いちばん狭い住まいでは、洗濯機の上の空きスペースを使って引出し(W24×D34×H15cm)4つに最小限の枚数を収納。その次の住まいも狭かったので洗濯機と洗面台のすき間を利用しました(W16×D45×H78cm、引出し4段=現在も使用中)。いつの間にか、「ここに置けたらいいな…」「ここに置くにはどうしたらいいか?」と考えるのが習慣になっています」土井けいこさん
その姿勢は、本当に徹底しているのです。だって、廊下さえも衣類収納の場所になるのですから。今は少し変わったそうですが、ここはかつて衣類の収納場所でした。
「寝室が狭くて出し入れが不自由で、寝室のクローゼットを季節外のもの専用にしました。その結果、奥行50cmでハンガーがギリギリの廊下の収納を、クローゼットに利用。クローゼットの横には来客用のコート掛けをつけて、帰宅時に脱いだ上着などを仮置きするようにしたのです。掛けた横にしまい場所があるので、片づけるのもラク。玄関からすぐという位置も帰宅時、出かける前の支度にも好都合でした。
私が主催する講座で、「家族がリビングで脱ぎ散らかして困る」と聞きます。玄関からリビングの途中に衣類の収納場所があれば、リビングが散らかることもなくなるのではないかと思っています。数年前、部屋の使い方を見直して、寝室が広く使えるようになったので、メインのクローゼットが廊下ではなくなりました。廊下の収納は現在、別の使い方に変わっています。よく行き来する廊下の収納はすごく使いやすいので、活用の方法を考えていこうと思っています」土井けいこさん
収納のテクニックとして、「ものは使う場所にしまいましょう」ということは、よく言われることです。でも、実際には私たちは「収納スペースがある場所にしまう」という無意識の思い込みにも支配されています。それが現れる典型が、「下着の収納」なのかな、と思います。
そこの収納スペースがないのなら、つくる!収納上手への道は、そんな発想にもあると気づかされました。
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