こんにちは。フリーエディター&旅するブログの先生、「編集脳」アカデミー主宰の藤岡信代です。インテリア雑誌編集長時代は、さんざん収納を特集したのに、収納が苦手な私(苦笑)。その理由はなんだろう?片づけのプロに取材しながら、片づけられない理由を探っています。
第2回に続いて、今回も「食器の収納」がテーマ。兵庫県宝塚在住の暮らしのアドバイザー、土井けいこさんの食器収納をご紹介します。
前回は、「食器は食器棚にしまうもの」という思い込みから、「引き出しにしまったほうが便利」と考えが変わった、というお話を書いたのですが、もう一つ、食器収納で目ウロコ体験をしたことがあります。土井けいこ先生のお宅の食器収納を目にしたときです。
トップの画像は、土井先生宅のダイニングルームのコーナーにある背の高い食器棚(正確にはシステム収納家具)。棚ごとにしまう食器が分類されていて、とっても美しい。これだけなら目からウロコは落ちないのですが(笑)、土井先生宅にはもう一つ、食器収納があるのです。
それがこちら。
キッチンの中にもシステム収納棚があり、こちらにも食器が収納されています。
食器は食器棚に「全部しまうもの」という思い込みがあった……と、これまた気づかされました。
土井先生に、「食器収納をダイニングとキッチンに分けた理由」を伺ってみました。
「使用頻度が違うものは、分けて収納すると管理がしやすい。キッチンは作業が目的の空間です。日々使う食器とそれ以外のものが混ざっていては、日々使うものが出し入れしにくい。キッチンに収納する食器も道具も、できるだけ動く(使用頻度が高い)ものに限定するのがいいのです。
そのため、キッチンのオープン棚には日々使うものだけ収納。たとえば5枚ある器もキッチンには家族分だけ。ほかはダイニングの収納棚に。お正月用など使う場面が限定されているものは、キッチンからもダイニングからも離れた、クローゼットの奥にまとめて収納しています」土井けいこさん
よく使う食器はキッチンの収納に、たまに使う食器や来客用はダイニングの収納に。土井先生の食器収納は、「使用頻度」によって分けられているのです。しかも、お正月用などの季節・行事のものは、キッチンやダイニングにすら置かない!
そもそも「同じアイテムは1カ所にまとめて置くもの」と思っていた私には、使用頻度で分けるという発想すらありませんでした。
土井先生が食器収納を分けるようになったのは、「既成の食器棚を持たなかったことが原点」なのだそう。30年以上前、当時、食器は最小限しか持たなかったので専用の収納家具は必要なかった、と言います。
その後、何回か引越しを経験したものの、ずっと食器棚は持たずにキッチンの調理台下の引出しに食器を収納。引出しに入らない大皿や来客時に使う食器は、自然に別の場所に収納することになり、「キッチンに食器類をまとめて収納する、という発想がなかった。その結果、使用頻度や大きさ、目的で分けて収納する使い勝手のよさ、管理のしやすさを身体で覚えたんだと思います」
「食器は食器棚にしまうもの」という思い込みが、土井先生にはなかったのですね。
使用頻度を考えて収納場所を決める。
この発想は、「ものを管理する」という発想にもつながります。土井先生の収納の考え方は、ものをしまうことが目的ではなく、気持ちよく使い、管理することが大事、というものです。そのため、食器収納も「使いながら管理する」という仕組みができています。
たとえば、ダイニングの収納棚は、扉の中に左右に7段の棚板があり、全部で14のスペースに分かれているのですが、土井先生は、ひと枠ずつ範囲を決めて点検をするそうです。
「点検は拭き掃除もかねて、ひと枠の食器を出して拭いて戻して3分ほどで完了。戻すときに、使っていない食器をはずして一番左下=【手放し候補】の枠に移します。左下が満杯になればそこだけ全部出して点検。実際の仕切りが頭の中の意識にも活かされているので点検がラクなんです」土井けいこさん
ひと枠の中に、どんな食器を入れるか?(土井先生はそれを【くくり】と呼んでいます)も年々変わってきているそうです。
とても気に入っているのになかなか使うチャンスがない小さな土鍋やときどき使う大好きなフタものを一カ所に集めました。【好きなもの】のくくりを新設したんです。以前その【枠】に入っていたものは、ほかの【枠】に分散吸収。使用頻度や自分にとっての意味をチェックしながら、少しずつものが【枠】を移動、再編して、最後には手放す。これを繰り返して19年です」土井けいこさん
ダイニングの収納棚の使い方を伺ううちに、私は、ある面白いことに気がつきました。扉つきのキャビネットなのに、土井先生は、それを視覚的にとらえているんです。
扉がついているので、ふつうは隠す収納って思いますよね?
「現在のダイニングの収納は、扉を閉めると四角い箱で中は見えません。だけど、扉を開けると収納の中全体が見えます。なんとなく扉を開けて眺めていることがたまにあります。開けたくなる収納です。
引き出し収納の便利さを知っているのになぜしなかったか?手持ちの家具の引き出しが深くて大きくて食器収納には向いていなかったこともありますが、「全体が見える収納」にしたかった。器の色、形、素材感が見える収納。これは管理と密接につながっている気がします。
理想、という感じではないのですが、器全体を見て愉しめて、管理もできるという点で、現在の収納はベターだと思っています」土井けいこさん
引き出しは、その中のものは一目で見渡すことができますが、引き出し一つの単位でしか見ることができません。持っているものすべてを一度に見ることはできない。
棚収納は、扉つきであっても、扉を開きさえすれば中のものをすべて見ることができます。これは、「管理」という点では、とっても便利。もちろん、土井先生は、食器が重なって見にくい……ということがないように、しまい方にも一工夫。たとえば、腰の高さの棚にしまった豆皿などは、奥まで見えるように大きく空間を取っています。
前回は、私にとってのベストの食器収納は引き出し、と書いたのですが、どんな目的で、どんなふうに使いたいのか?それによってベストの収納方法はそれぞれ違うのだと実感しました。
最後に、土井先生がこの食器収納をどうプランしたのか?をご紹介します。
「19年前のことですが、阪神淡路大震災後3年かけてやっと見つけたのがいまの住まい。器を楽しむ暮らしを実現することが大きなテーマでした。そのテーマのもと制約を活かしながら具体策を考えました。
見た目のバランスだけでなく、棚ごとに使う目的や使う場面などで、大まかにグループ分けして、わかりやすい収納状態を考えました」土井けいこさん
こういう暮らしがしたい。
だから、こんなものを持つ。
それを活かすために、収納を工夫する。
収納上手な人の共通点は、この発想のプロセスにあるような気がします。言い換えれば、「ものをしまうこと」をスタートにしない、ということです。
References & Thanks to
1
4月4日公開
久しぶりに引っ越しをしたら、見事に「片づけられないオンナ」に逆戻り…。そんな藤岡さんが書籍の取材を兼ねてライフオーガナイザーのサポートを受けて気付いたのは、収納に対する「思い込み」でした。収納すること自体が目的となって、「どう使いたいか?」を考えることを忘れていませんか?発送の転換で収納の苦手意識を克服しましょう!
2
5月9日公開
食器は食器棚へ。そんな当たり前の発想を疑ってみませんか?食器収納に適した場所は、毎日の食器の出し入れの動作にヒントがありました。「使いづらさ」をきっかけに収納を考えてみると、無理なく出し入れができるようになる場所が見えてきます。固定観念にとらわれず、しっかりと収納の理屈を考える。そんな新しい収納術を紹介します。
3
6月13日公開
暮らしのアドバイザー、土井けいこさんへの取材を通じて食器の収納術を研究中の藤岡さん。今回は、食器をダイニングルームとキッチンに分けて収納する土井さん流の収納スタイルの理由を考えます。食器を1カ所にまとめてしまうという固定観念を捨てて、使用頻度に応じて取り出しやすい場所にしまうことで、収納の目的意識が大きく変わりました。
4
7月25日公開
しまい方の「仕組み」を考える。収納を目的別にまとめることで、しまう時も使う時も手間を省くことができます。例えば、収納の基準を「もの」から「人」に変えてみると、使うたびに分配するストレスが軽減しました。ライフオーガナイザーの北村めぐみさんに学ぶクリエイティブな収納術。
5
9月5日公開
何となくの思い込みで、しまう場所と使う場所が異なるものはありませんか?例えば下着。衣類と一緒にクローゼットにしまう人が多いようですが、実際に使う場所を考えれば洗面脱衣室に収納するという選択にも納得できます。先入観を捨てて、使う場所からしまうべき場所を考えてみましょう。
6
10月3日公開
目からウロコの収納術、最終回は総集編。片付けられない理由を見直してみると、収納に対する先入観が意外と多いことがわりました。「どこでどう使うか」にフォーカスを当てると、収納のあるべき姿が見えてきます。収納がラクになる5つのポイント、ぜひお試しください!