イギリスの首都。ヨーロッパ、ひいては世界経済の中心のひとつとして知られる大都市で、世界有数の観光都市でもある。2012年にロンドンオリンピックが開催された際にはホテルの客室数が12万室以上あったとも言われている。そのうちの半数以上が三つ星〜五つ星で、ロンドン中心部から10km四方に集まっている。
「旅で見つけたインテリアのヒント」、 イギリスのインテリア話が続きますが、第3回はびっくり仰天な、超激狭ホテルのお部屋の話をします。
「世界一ホテルの部屋が高いのはパリ」というのを何かの記事で読みましたが、ロンドンのホテルも負けていません。日本が長期のデフレに沈んでいる間に、ロンドンは経済が盛り上がり、一時期よりは下がったとはいえ、不動産バブルと言われるほどロンドンの不動産は高騰。当然、市内のホテルも相当なお値段になります。
円安になんぞなろうものなら、スー●ーホテル並みのコンパクトな部屋でも、1泊1万5000円なんてことに……。私が取材でロンドンを旅した2014年も、シングルルームの値段の高さに、目が点になったことを覚えています。そして、宿泊する部屋のドアを開けたときには、もっともっと目が点になったのでした(笑)。
そもそもイギリスのホテルでは、ダブルかツインの2人仕様が基本で、シングルルームはまったくないか、あってもほんの数室というのが多いのです。カップル文化だからかもしれませんが、日本のビジネスホテルのような形態はあまり見かけません。お安めのチェーンのホテルでも、ダブルかツインが基本です。
ロンドン市内のリーズナブルなホテルは、タウンハウスをリノベーションしているケースも多く、そもそもシングルルーム向けの空間も少ないのでしょう。階段の踊り場についた物置?女中部屋?というような(昔の旅館でいうなら布団部屋ですね。笑)スペースが、たいていシングルルームになっています。
というような事情は、それまでの10回以上の渡英経験で知っていたのですが、2014年の冬と夏に泊まったホテルは、本当に半端なく狭かった(笑)。
まずはこちらをご覧ください(写真:右)。
ベッドフットと壁との間の狭い空間に、椅子、壁つけの棚にテレビ(落ちそう…笑)、その下の棚に電気ポットとC&S、壁にはドライヤー、写っていませんが、その右手にはハンガーとフックがむき出しにありました。つまりクローゼットはなし。
バスルームはと言うと、扉を開けるとすぐ手前に便器、そして斜めに!シャワーカーテン。その奥には三角形の防水パンがあってシャワーブースになっているのです。スペースにすると半畳くらいしかないところに、トイレ、シャワー、洗面台が詰め込まれている!
狭さに挑戦?? 無理やりなんだけど、納めてしまうところに、ちょっとした感動を覚えたくらいでした(笑)。そして、こんなに狭くても、電気ポットとC&Sは欠かさない(笑)。ま、それが規定の一つなんでしょうけれど、「お茶がなければ、くつろげないでしょ?」というメッセージを感じたりします。
ベッドヘッド側は、こんな感じ(写真:右)。
シングルベッドに、一応、ナイトテーブルがセットになっています。全体にギュウギュウ詰めなんだけど、必要な設備は揃っていて(ホテルのランクづけの要件になっているようです)、狭いからとすべてを削ぎ落とすのではなく、ギュウギュウになっても、快適に過ごすための道具は揃っていたほうがいいんだ~、と学びました。
この部屋よりもさらに超絶的に狭かったのが、ヴィクトリア駅の近くのこの部屋。
ベッドフット側に設備がギュギュっと詰め込まれているのは同じですが(写真:上 – 左側)、こちらはオープンクローゼットにデスクつき(扇風機も。笑)。大きな鏡の効果で、多少、狭さを緩和していますが、その分、テレビの場所が犠牲になり、すごーくテレビが見づらいんですけど状態(笑)。
先ほどの部屋よりも狭いくらいなのに、ベッドヘッド側はぐっとスッキリして感じます(写真:上 – 右側)。
(写真:左)シャワールームは、なんと、ドアを開けるとギリギリまで防水パンが迫っていて、その上に洗面台、シャワーカーテンは少し奥に掛かっていますが、シャワーブースに入るとカーテンがぴたりと体についてしまうくらいに近い(笑)。そして、当然、便器のスペースはありません。この部屋は、シャワー付きトイレなしの部屋だったのでした(笑)。
けれども、こちらの部屋はインテリアのリノベーションがされていて、機器もインテリアデコレーションも新しいので、先ほどのホテルよりはぐっと居心地がよいのです(トイレが外なのは不便でしたが。笑)。理由は、画像を見てもうおわかりだと思いますが、インテリアの色使いです。
こちらの部屋は、落ち着いたグレーを基調に寒色系のカラーコーディネート。グレーは中間色ですが影(シェード)の色、グレーは後退色ですから、空間が引っ込んで見えるんですね。それに対して、白は、実は出っ張って見える色なので、狭い空間では圧迫感になることもあるのです。
ロンドンでシングルルームに泊まるときは、実はこういった工夫の数々を見ることが楽しみになってきました。空間の広さは15m2あるかないか、ということが多いのですが、それでもインテリアを楽しもう!という意図は感じられる。それは色づかいだったり、レイアウトだったり、狭いながらも欠かすことのない、壁を飾る1枚のアートだったりします。
インテリアのうまさ、という点でうなったのが、こちらのホテルでした(写真:下)。
パディントン駅の周辺にたくさんある、リーズナブルなホテルの一つ。シングルではなくダブルです。1階にある部屋のドアを開けると、いきなり階段を7段ほど下がるつくりになっていて(つまり半地下?謎です)、ベッドだけでいっぱいいっぱいの部屋にバスルーム。
そもそも穴倉に入っていくような感覚があるわけですが、全体のカラースキームは、カーキっぽい色の壁にベッドヘッドの周りだけさらに濃いブラウンを持ってきています。
濃色をうまく使うのは、イギリスのインテリアの特徴だと私は感じるのですが、たとえば濃い赤はよく書斎に使われますし(ライブラリー・レッド)、濃いグリーンもそう。濃い色をあえて部屋の壁にもっていくと、ぎゅっと締まった感が出て、高級感というか落ち着きが感じられる気がするのです。
この部屋の場合、色使いだけでなく、インテリアの装飾もなかなか見事です。天井まで届く、背の高いヘッドボードは、少し前からの流行で、天井まで伸ばすことで視線が切れることなく、上下の“高さ”を感じさせる視覚的な効果があります。そして天井付近には、折り上げ天井のような白のスタッコ風の造作。ダウンライトが仕込まれていて、ベッドヘッドランプになるようなプラン。もちろん、全体の明るさをとるのにも使われています。
ヘッドの部分だけにかかるようなデザインは、いわゆる天蓋を思わせます。クラシカルで、ちょっと貴族的な香りがするわけです。全体のラインはシンプルで、ダウンライトを使っていたり、色や素材づかいが今風なので、印象はモダンです。クラシカルモダンというテイストになるんでしょうか。
さて、ベッドフット側も見てみましょう(写真:右)。
ベッドヘッドと対になるようにオークのパネルを設けて、そこにテレビモニターを。天井付近にも、対になるデザインが施されています。そして、天井付近の飾り部分から天井にかけては、すべてが白。これも、実は視覚効果を狙ったもので、色のある壁から白の天井へと目がいくと、天井部分が抜けているような感覚になるのですね。
白は膨張色でもある、と先ほど書きましたが、白は光の色でもあります。天井は光に満ちていて、どこまでも高く抜けている……。そんな配色になるわけです。
こういったインテリアの工夫は、“平面の狭さ”から目をそらして“空間の高さ”に目を向けさせる、という発想からきています。空間の狭さというのは、まず床面(=平面)の面積がないわけですが、もしその空間に高さがあれば、空間の体積は大きくなるわけです。もし天井までの高さがあれば、わざと壁に、上下に伸びるラインを細長く入れてみる。この部屋の場合、壁のミラーがその効果を強調していますね。
バスルームもご覧のとおり、コンテンポラリーな感じにリノベーションされていました(写真:右)。よく見ると、直線が目立つコーディネート。ベッドルームとの統一感も見事だと思います。
旅先で、ふだんよりも少し贅沢をして高級ホテルに泊まるのも楽しいものですが、手の届く範囲で、発見があったときの喜びは、それに勝るかもしれません。日本のビジネスクラスのホテルでは、インテリアに工夫しているというレベルのものにはなかなか出会えませんが、設備をうまくレイアウトするという意味では、阪急阪神第一ホテルグループの「レム」はとっても工夫があると思います。
狭いから快適ではない、とは限らない。
旅のホテルは、そんなことも教えてくれます。
1
9月27日公開
旅好きなインテリアエディター藤岡さんが世界各地で出会ったら魅力的なインテリアをレポートする新連載。第1回はイギリスの「ドーセットスクエアホテル」。ロンドンの高級住宅街の一角にあるこのホテルは全38部屋すべての内装が異なります。
2
10月25日公開
「モダンデザインの父」と呼ばれるウィリアム・モリスの旧邸宅「レッドハウス」がロンドン市内にあります。「役に立たないものや、美しいとは思わないものを家に置いてはならない」という自身の言葉どおり、その素朴で美しいインテリアは必見です。
3
11月22日公開
ロンドンの超激狭ホテルの内装に意外なヒントがありました!設備がぎゅうぎゅうに詰め込まれたわずか15平米ほどの部屋ですが、「インテリアを楽しもう!」という意図を持ってコーディネートされた空間のなかに、藤岡さんは色々な工夫を発見しました。
4
1月9日公開
窓から見える景色もインテリアの一部として捉えると、クルーズ船の旅は美しいインテリアの宝庫に!藤岡さんがヨーロッパの船の旅で発見したのは「ずっと見ていたい景色」として居室に溶け込むインテリアの在り方でした。
5
2月7日公開
ホテルの部屋の「ヨーロピアンタイプ」と「アメリカンタイプ」。違いを理解してみると、どちらもそれぞれの良さがあるようです。ロンドンで泊まったアメリカンタイプの部屋で、藤岡さんは開放的な空間ならではの魅力を発見しました。
6
3月7日公開
長期滞在者向けのアパートとホテルのメリットを併せ持つアパートメントホテル。旅先で“暮らすように過ごす”ことで、その無駄のない空間の合理的なレイアウトに魅了されました。