毎年冬の年度末の季節になると、長野県松本市にある地元百貨店にて、長野県伝統工芸展という企画催事が開催さえているのですが、都合が付くときには訪問していたのです。何度か訪問していたこともあり、その時にも多分長野県農民美術は見ていたとは思うのですが、見たことの記憶にも残らない位の感じだったものの、3年前に訪れた際にある商品に目が留まりました。
「雪ん子」という手のひらサイズの木彫りの人形です。
この木彫りの人形のキュートな意匠と素朴な存在。そして何より、そのキュートさから繋がらない力強い「長野県農民美術」という名前。その全てを目にした時に、一気にその工芸品に惹きつけられました。そして、何よりもラッキーだったのは、雪ん子を作っている作り手さんが、その日の当番でその場にいたという事でした。
簡単に長野県農民美術のことを少し書きますが、大正8年(1919年)全国に「農民の手により作られた美術的工芸品」の普及を目指し、創作版画の父であり児童自由画教育の提唱者である山本鼎(かなえ)を中心として、現在の上田市の神川村の小学校の教室を借りて、長野県農民美術運動がスタートしました。その後は、一時は全国で50以上の組合や生産団体が組織されましたが、戦争などの影響もあり、その生産や活動がほぼ休止・停止状態になりました。戦後になり、県内に散在していた作り手方が「長野県農民美術連合会」を復活させたのです。農閑期の副業として出発した農民美術は、長野県の地場産業として定着し、現在では、素朴でありながらバラエティーに富んだ作品が作られています。
さて、少し話が脱線しますが、今回このWEBマガジン「KAMAKULANI」で我々五八PRODUCTSを紹介してもらっていますが、肩書は「問屋」ということになっています。
大きい商いをしている訳でもありませんので、偉そうにも言えませんが、デザイナーではなく「問屋」というスタンスに立ち入ることで、様々な部分に注意がおよぶ様になってきたと実感しています。
例えば、値段の根拠。
これは、様々な要因が関係しているので正解は無いと言えますが、それでも、ある程度の「根拠」は必要だと思っています。
根拠って?
これも正解はないと思います。ただ、その根拠を聞いた人がいかに納得できる値段になっているかということが重要になると思っています。伝統工芸品などの商品や作り手さんとのお付き合いがスタートした当初、まだまだその世界に無知であった私は、百貨店などで開催されています所謂「伝統工芸品展・職人展」などに足を運んで情報収集をしました。その時に「この説明(=根拠)では、買わないよな~」と思った経験がありました。それは、
まとめると、この3つの内容に整理されます。どうしても伝統工芸品は、量産されている製品よりも割高なイメージが強いと思います。その割高になってしまう説明=根拠として、上記の3つのような説明をするところが多かったのです。その時感じた私の違和感は、「逆にそう説明されると腰が引けて、扱いにくく・気を使う商品になるんじゃないか?」という違和感だったのです。
さて話を戻しましょう。
偶然その場で雪ん子の作り手さんと話すことができ、長野県農民美術の事や作り手さんの事など色々とお聞きしました。そのとき私は、雪ん子の値段について「何でこんなに安いんですか?」と尋ねてみました。販売価格は、現在五八PRODUCTSで取扱いしている価格と同じ値段設定をしていましたが、他の農民美術の販売価格が、軒並み20,000円~50,000円位だった中で、この雪ん子の「1,800円」という販売価格は劇的に安い金額でした。
実は、この販売価格の根拠を作り手さんから聞いたことで、私は五八PRODUCTSで紹介したいと強く強く思ったんです。その理由というのが、1,800円で販売する為の木彫のカット数や色付けや大きさ、モチーフなどを考える、というものでした。雪ん子はもともと1,800円で販売するために作られていたのです。
値段の付け方で比較的多いのが、原価や手間や箱代などを単純に積み上げてそこに若干の利益を付け加える、という方法です。これは、単純で損をしない値段の付け方だとは思いますが、どうしても高めの設定になる傾向があります。ですが、この雪ん子の作り手の方は、まず「1,800円で販売できる」という出口が先にあり、それを実現するために「どうやって作ればいいのか」という、非常に柔軟な考えの持ち主だったのです!
この考えを聞いた時の驚きと感動は、今でも忘れられない体験でした。この商品に限らず、他の伝統工芸品でも比較的手ごろで安めな販売価格のものもありますが、高齢の作り手さんに多いのが「趣味で作っているから」とか「年金生活だから」などの理由で説明されるケースです。このこと自体は否定もしませんし、手に取りやすい販売価格は、消費者にとってみるとありがたいことです。ですが!そのスタンスで販売されるということは、結果的に売上=儲けに繋がらず、その連鎖が後継者不足に繋がっている要因だと我々は考えています。もちろん「高く売りましょう!」という事ではなく、だからこその販売価格の「根拠」が重要になるのです。
「根拠とそれを実現するための柔軟な考え」
このような考えを持った作り手さんは、なかなか貴重な存在です。しかもそれが80歳を超える方というのが、その貴重な存在を増幅させる要因でもあります。これは、デザイナーという領域からですとなかなか気づかないことで、五八PRODUCTSが「問屋」というスタンスで活動をしているからこそ感じられる体感ではないかと思います。
ここ数年、我々五八PRODUCTSが農民美術を紹介をすることで、今までよりも知ってもらえる機会が増えてきたとは実感しています。また、我々が発信していることで、地元の長野県の方たちに、その価値を見直して頂くきっかけにもなっています。
打ち合わせの際に長野県上田市にある作り手さんのところにお邪魔しますと、まだまだ紹介したい商品や作品が工房に溢れています。しかしそこは80歳を超える年齢という事もあり、なかなか無理も言えない現状であり、今までのように、製作と小休憩の繰り返しで、作り手の方に負荷をかけすぎない関係性を継続したいと思います。
現在、その作り手さんは奥様とお二人で暮らしているのですが、奥様から「ずーっと苦労してきたのよ」とお聞きしました。その表情が本当に微笑ましくて優しい表情をしている。そんな話を聞ける関係性を構築できたことに感謝するとともに、これからまだまだ良い報告がたくさんできるように頑張ろう!と思わされます。
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1月19日公開
五八PRODUCTSでも多くの商品を扱っている、肥前吉田の陶磁器ブランド「224porcelain(ニー・ニー・ヨン・ポーセリン)」。シンプルだけど機能的なテーブルウェアのSUIシリーズ、本棚に彩りを添えるはなぶんこ、ペーパーフィルターのいらないコーヒードリッパー「Caffé hat」など、五八と共同開発した商品を紹介します。
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2月16日公開
国産うちわの約90%を生産する香川県丸亀市。江戸時代から受け継がれる伝統技術に、五八PRODUCTSの新しい解釈を加えて生まれた「丸亀うちわ Ojigi」は、首をかしげておじぎをしているように見える愛らしい形が特徴です。
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3月15日公開
まるで箱入りキャラメルのようなかわいい石鹸『旅する石鹸』。形にも品質にもパッケージにもしっかりと意味があるのです。企画先行型のモノづくりは、五八プロダクツの新しい可能性を感じさせてくれます。
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4月19日公開
大正時代に長野県で農業閑散期の産業として生まれた「農民美術」。戦後の復興とともに再び復活したこの運動は現在でも地域の作り手の皆さんによって受け継がれています。この長野県農民美術と五八プロダクツの出会いのきっかけとなった木端人形「雪ん子」。その値段には思わず膝を打つ「根拠」がありました。
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5月24日公開
2016年で活動5周年を迎える五八PRODUCTS。産地との関係を重視して、あえて「デザイナー」ではなく「問屋」であることを選んだことの意味を、今改めて見つめ直しています。若い世代に日本の物づくりの素晴らしさを伝えていくために、産地や作り手の人々と消費者の間で五島さんと八木沼さんの挑戦は続きます。