フリーランスで仕事をするということは自分で仕事を作っていかなくてはいけません。焦ったり、不安になったり、いろいろと気持ちのメンテナンスも大変です。焦る時に来た仕事=あまり気分が乗らない仕事 を受けてしまった時の後からやってくる後悔は大変です。
「なんで受けてしまったんだろう」と悶々と自問自答しながら作るキャンドルはいいものではありません。気持ちが乗らない仕事はいくら仕事とはいえやるべきではないと、最近はお断りすることも多くなりました。こうやってここに書くことでさえドキドキしますし、勇気がいります。でも、いろいろ経験してみて作りたいものを作っている時のキャンドルはとてもいいなぁと思うのです。
幸い、私は作ることがとても好きなようでずっと作っていられます。
とても忙しい時期になってくると、感覚が研ぎ澄まされてくることがあります。夜は早く9時頃に就寝して夜中1時や2時に起きて絵付け作業を開始します。しんと静まり返った部屋で指先にだけ集中していると、幸せな感覚に包まれることがあって、でもいつもではないのでとても集中できた時なのかなと思います。
夜明けの時間に水筒にコーヒーを入れて裏の海まで日の出を見に行きます。ひとしきり朝日を浴びて松林を歩いて帰ってきます。その後また作業に没頭します。自然の中を歩いているとふと思いつくことがたくさんあって、家に帰って慌てて書き留めたりします。
仕事への向き合い方をよく考えます。どういう気持ちで作るか、どういう場所で作るか、何を作りたいのか、そしてどうしたら幸せか。これを全部自分で選ぶことができるとしたら。今まではがんばる自分が好きでがんばればなんとかなるのかな、と焦ったりしながら作って今感じる気持ちを全部無視していました。
でもそうじゃないのかもしれない、今私がいい気持ちじゃないといいキャンドルは作れない。使ってくれる人に対して失礼なことをしている!それに気がついてからは今までの作り方を全部変えていくことにしたのです。今感じる気持ちを大事にしよう、今作りたいものを優先しよう、とどんどん気持ちの純度を上げていく訓練です。
いつも気持ちをまっさらにして作業台に向かうこと。プリミティブに、なにかいいものを込められるように、火を灯した時に魔法がかかるように。そしてキャンドルを手にした人が幸せになるように。
作ることで私自身も生かされているのだと思います。実際に今は毎日がとても幸せで充実しています。これからもいいものを込めていけるように日々を整えていきたいと思います。
連載もこれでおしまいです。6ヶ月間ありがとうございました。
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8月29日公開
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1月30日公開
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