Fujioka Nobuyo

インテリアエディター

インテリア雑誌『PLUS1LIVING』ハウジング雑誌『はじめての家づくり』などの編集長を経て、現在では『編集脳アカデミー』主宰として住宅や編集に関するセミナーやコンサルティングを行う。

「居心地のいい家」のつくり方

1「居心地のいい家」ってなんだろう?

施工例:近藤邸(芦屋市)/設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

15年住宅インテリアの雑誌に携わって思う
「居心地のいい家」とは

こんにちは。はじめまして。
フリーランスの編集・ライターをしている藤岡信代と申します。
KAMAKLANIでコラムを担当することになりました。どうぞ、よろしくお願いします。

私は、2012年の3月まで5年間、主婦の友社の『PLUS1 LIVING』というインテリア雑誌と『はじめての家づくり』というハウジング誌の編集長をしていました。はじめて『PLUS1 LIVING』の編集部に配属になったのは20代の半ば過ぎ。1990年代の後半でした。それ以来、15年以上も、インテリア雑誌、ハウジング雑誌を担当し、ず~っと、家づくりやリフォームのことを取材してきたことになります。

私が配属になった1995年ごろは、カントリーブームの真っ最中。
『PlUS1 LIVING』という雑誌をご存知の方はパッと目に浮かぶと思うのですが、『PLUS1(当時の誌名)』は、なかでもブリティッシュカントリーを推していて、無垢のフローリングや漆喰の壁、無垢板のテーブルなどなど、天然素材がお好きな方をたくさん取材していました。姉妹誌のハウジング誌『はじめての家づくり』も同様で、たくさんの建築家さんに、居心地のいい空間づくり、天然素材との付き合い方、そして大事なコストダウンの方法などなどを教えていただいてきました。

主婦と友社『PLUS1』(現『PLUS1 LIVING』)

インテリアという、住まいの“中身=ソフト”へのアプローチと、ハウジングという、住まいの“箱=ハード”へのアプローチ。この両方から「住まい」を考え続けることができたのは私にとって非常に意義深い体験となりました。「住まい」とは、建物というハードとその中で営まれる暮らしというソフトの2つがあって意味を成すものだから。

そんな15年の取材経験を通じて生まれた「30年、満足が続く住まいとは?」というテーマのもと、このコラムでは「居心地のいい家」について綴っていきたいと思います。

造り込みすぎず、ほどよくこだわりのある
“いい按配の家”が好き

家づくりにはいろいろ思い入れがある私に、講座やコラム執筆の機会を与えてくださったのがKAMAKLANIのキュレーター出来さんです。出来さんとは、私が『雑貨カタログ』という雑誌編集長を兼任していたときに知り合い、東京にいらっしゃる際には、編集部にきてくださったりとまめにご連絡をいただいていました。

そんなこんなで、出来さんが「今度、新築で買ったマンションをリフォームするんで取材してくださーい」と連絡をくれたときホイホイと出かけていきました。出来さんは、「carbon」という雑貨屋さん+ピアノ教室のオーナーもされていますが、古い長屋に、味わいを活かしたリフォームを施しておしゃれで、居心地のいい空間に仕立て直すのが大好き。初めのころはDIYもがんばっていたので施工に関する知識も豊富で、清潔感と、古い味わいのバランス感覚も、素晴らしい。

そんな出来さんが、新築マンションに味のあるリフォームをする?
これまでとは真逆のアプローチ、興味がわかないわけがない!

さて、取材当日、マンションの重い(味気ない)ドアを開けると・・・、そこには、澄んだ光と空気にあふれた空間が待っていました。

設計施工:フクダ・ロングライフデザイン

新築マンションの部屋は、ふつう、新しさばかりに目がいくものですが内装が調和した、いい空間になっているのでそこにある“光”と“空気”のほうを、鮮明に感じるのです。

新築マンションの魅力は、便利な立地、最新の設備機器、セキュリティの充実、誰でも住みやすい間取り・・・。 反面、掃除はしやすいけれど平板な新建材の内装(ビニール壁紙、樹脂加工されたフローリング、アルミサッシなど)使いやすいけれど、個性もない間取り・・・、といった“残念なところ”もあります。

出来さんの住まいは、その“いいところ”と“残念なところ”を実にうまく取り出して、残念なところはリフォームで補って“いい按配の家”に仕上げているなぁ・・・と感じました。

さらに、お話を伺ってみると、新築マンションの便利さ、機能面はそのまま生かし、足りない“味わい”の部分は、優先順位の高いものから考慮してリフォームで補っていました。

たとえば、空間の雰囲気づくりにいちばん影響する床は無垢材のフローリングに変更。逆に、あとでDIYやプチリフォームもできる壁面は必要なところだけ変えてビニール壁紙のまま残したところもあります。パッと見て強く印象に残る、室内ドアなどの建具は味わいのあるものに変更。逆に、取り換えができないサッシ窓は、目立たなくする工夫で、欠点を隠していました。

実に、按配がいいのです。最低限のリフォーム、ということでこだわりすぎていないところも、逆に軽やかに感じて、「いい!」と思いました(施主のこだわりの強い家って、なんか、重いでしょ?)。

こういうリフォームは、ほんとうに価値がある!

私自身が、長い取材経験で培ってきた知識と、見事に合致しました。それから、会う機会があれば家づくりについて意見を交換し合う、という関係が始まったのでした。
私と出来さんとでは、インテリアに関する好みも家づくりに関する経験も、異なっていますが、住まいに長く関わるうちに、たどり着いたところがとても近かった!という感じです。

このコラムでも、私が書き綴ったことにときどき、出来さんにツッコミを入れてもらいながら続けていきたいな、と思います。

Chat with the Curator

藤岡 信代
キュレーター 出来 忍

2015.9.4

<DEKI> 藤岡さんのコラムの第1回目がわが家のリノベーションのお話でした。 感覚と勘でプランニングした私のリノベーションを雑誌で取材して、 わかりやすく文章で筋立てをしていただき、自分の事ながらなるほど!と 思うことがたくさんありました。 施主の立場を6回経験してやっと「満足」のいくリノベーションができたのが 今回のマンションでした。それは使われる予算の検討が付くようになっていた 事と使いたい材料と仕上げの雰囲気が定まっていたからっと思っています。 それを人生で1度の施主経験で「満足のいく家つくり」にするには、 藤岡さんは何が重要なことと思いますか? 本文に掲載してる「PULS 1」は何度かの引越しでも捨てることが出来なかった 号です。藤岡さんが私の部屋で見つけて、このイギリスの特集はとても思い入れの ある取材で懐かしいっとおしゃってました。コレもなにかのご縁ですね! 各分野のプロフェショナル(設計士・工務店・インテリアコーディネーター・ 家具メーカー・設備メーカー・植栽などなど)から生の声を取材して、 なおかつ施主の立場である読者の声までも聞いて来られた藤岡さんが考える 「居心地のいい家」がどんなお話になるのか今からワクワクします。 私は上手なツッコミを準備しておきますね。

2015.9.10

<FUJIOKA> 人生一度の施主体験で「満足できる家づくり」をするポイント?? 出来さんもいきなり難しい球を投げてきますね(笑)。 どうお答えすればいいものか、考えてしまいました。 いくつかポイントがあると思うのですが、私がいちばん大事だと思うのは、 「満足できる」という合格ラインを、自分自身で知っておくことだと思います。 100%思いどおりにいくこと=満足、ととらえてしまうと、1つでもかなわないことがあると不満足になってしまう…。 それこそ何度、施主になっても、「満足できる家」が建たない可能性だってあるわけです(笑)。 出来さんが6度の施主経験を重ねて、やっと満足がいくようになった、というのは、 「この予算で、これくらいの望みがかなえばOK」という満足の合格ラインが、自分でわかるようになったからではないですか? 今回のリノベーションでの「合格ライン」がどのあたりだったのか、ぜひ教えてください。

2015.9.13

<DEKI> いきなり難しい球をなげてしまい、ゴメンなさい!(笑) おっしゃるとおり何度も施主を経験しても100%を目指すと「満足」は一生感じることはないですね。 私の記念すべき1回目の改装は安くすることしか考えておらず、自分が動く人件費は度外視でした。 半年という自分の時間をすべてかけて理想に近い店舗を完成しましたが、見えないお金はたくさん かかったように思います。(改装中の空家賃すら見落としていました) そのあと2、3度目は決まった期間内に仕上げる、というタイトスケジュールが条件でした。 時間短縮のために職人さんに材料の手配をお願いしたり、タイル貼りや塗装の工程を間違ったことで 見込んでた予算をはるかにオーバーしてしまいました。 その経験から4、5度目は「セルフリフォームはもうしない!」の考えになっていました。 職人さんに仕上げてもらうと、やはり自分でするより何十倍もキレイな仕上がりですから、その技術を買うことの 重要性も理解できてきました。 6度目で合格ラインに乗っかった実感は、60~70%思いどおりにいけば=100%っと思っていたことです。 「この予算で、これくらいの望みがかなえばOK」を少し上回る出来栄えに大満足でした。

2015.9.20

<FUJIOKA> 自分が理想とする住まい、たとえば間取りや内装といったことでも、 実現するための方法を施主自らがすべて調べるのは不可能だと思うんですね。 やはり、それはプロである設計士さんや施工会社さんの知識や知恵を お借りしたほうがいい。そのほうが何倍も選択肢が広がると思います。 問題は、プロであるはずの設計士さんや施工会社さんが勉強してない(笑) ということがある、それから施主の希望を聞いてそれを実現してあげようという意欲が 足りないことがある、ということかなぁ・・・。 解決策はもう、「いい業者さんを探しましょう」ということに尽きてしまうんですが(笑)。 いい業者さんと出合うために、私は、施主が住まいの材料や施工方法などを 少し勉強しておくことをおすすめしたいですね。 コミュニケーションって、キャッチボールだと思うんです。 こちらがいいボールを投げるから、相手も受け止めることができて、 さらに投げ返すことができるわけでしょ。 施主の投げるボールが、見当違いの方向に飛んでいったり、 力不足で届かなかったりしたら、やっぱり業者さんも返しようがない。 だから、同じレベルでキャッチボールができるように最低限の知識は調べておいて、 「これを実現するには、●●●という方法があると調べたのですが、どうでしょうか?」 というふうに業者さんに投げかけてみる。そこでお互いが辛抱強くキャッチボールができれば、業者さんが持っている引き出しを開けることができて、調べても出てこなかったような方法が見つかるかもしれない、と思うのです。 キャッチボールをすることができれば、「なぜ実現できないのか」ということも理解できるかもしれないしね。 <「居心地のいい家」とはなんだろう?> (このタイトルの最終回になります)次回、10月上旬予定。

「居心地のいい家」のつくり方

1

7月26日公開

「居心地のいい家」ってなんだろう?

ハウジング誌『PLUS1 LIVING』の元編集長が考える「居心地のいい家」。機能性を重視されがちな新築マンションで、軽やかに「いい按配」のリフォームを施す秘訣とは?

2

10月13日公開

「住まいへの満足」ってなんだろう?

自分の住まいを持つとき、様々な条件や制約のなかで、計画的に「満足度」を考える。藤岡さんの実体験に学ぶ、欠点も愛着に変える住まいとのクールな付き合い方。

3

11月10日公開

「家の完成」っていつだろう?

あえて完成させない家づくり。建物ができたら、そこからDIYで楽しみながら手入れしていく。そんな欧米では当たり前の考え方を参考に「家の完成」について考えます。

4

12月22日公開

「あとで変えられないもの」こそ...

新築やリフォームの際に、あとからでは変えられないポイントをしっかり抑えておくことで、優先順位が明確になり計画的な家づくりができます。

5

1月26日公開

「暮らしにピッタリ合う」家は、...

ついつい力を入れてしまう住宅のカスタマイズ。でも果たして一時期の家族構成やライフスタイルに合わせて家を作りこんでしまっていいのでしょうか?

6

2月23日公開

住まいに「味わい」をもたらすも...

味わいがあるけど手入れが大変そうな自然素材。性能や費用だけでなく「衛生観念」を基準に無垢材と新建材を使い分けてみると、無理なく住まいの経年変化と付き合えるでしょう。

7

3月22日公開

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インテリアを楽しむ秘訣は実は「壁」にありました。家具が引き立つ「壁」の使い方、そして発想の転換で配置する「窓」。インテリアのための目からウロコのプランのポイントをご紹介。

8

4月26日公開

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照明器具選びは光そのものをデザインすることでもあります。思い描いた光の雰囲気を正しく伝えるためには、照明の知識は然ることながら、工務店との綿密なコミュニケーションが必要です。

9

5月31日公開

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10

6月29日公開

家づくりでこだわるべきは、「見...

かっこいい家、おしゃれな家、と思わせるために必要な鍵はやはりインテリアにありました。印象的な「見せ場=フォーカルポイント」を作ることで空間がぐっと引き締まります。

11

7月26日公開

もう一度、家を建てるとしたら「...

もう一度、家を建てるとしたら…。いまの暮らしの中で感じる不便さや不自由さこそが理想の家づくりのヒントになります。愉しい家にするために必要なふたつのポイントをもう一度おさらいしましょう。

12

8月30日公開

「永遠の家」は、普遍性と特別感...

連載最終回。「本当にいい家」とは何か?全12回のコラムを通じて藤岡さんが考察してきた理想の家づくりについて、フクダ・ロングライフデザインの福田社長にインタビューしました。