嬉野町と塩田町が合併して2006年に誕生した市で、嬉野茶の産地として知られる。周囲をぐるりと山に囲まれた盆地で、温泉地としても人気が高い。
焼き物の町としても400年以上の伝統を持ち、肥前吉田焼は同じ佐賀県の有田焼よりも歴史が長い。
今回は、五八PRODUCTSの中で最も多くの種類の商品を扱っている「224porcelain(ニー・ニー・ヨン・ポーセリン)」を中心にお話ししてみようと思います(以下、五八PRODUCTSは五八、224porcelainは224と記します)。
五八と224のつながりは2008年まで遡ります。
224の辻諭(つじさとし)さんが母体である与山窯として上京されていた際に五島と出合いました。五島の出身地が与山窯に近かったことから共通の知人がいたり方言で話せるということで話がトントンと進んで、茶器のシリーズ『SUI』や『はなぶんこ』が生まれます。その後に辻さんを通じて八木沼と五島は出会うことになります。辻さんがいなかったら五八はなかったということですね。
与山窯は、温泉とお茶で有名な佐賀県の嬉野という町にある肥前吉田という小さな磁器の産地にあります。同じ佐賀県の全国的に名の知れている産地「有田」の問屋さんを通して世の中に流通しているため、一般的には有田焼として認知されています。実は肥前吉田は有田よりも歴史は古く、与山窯も諭さんで7代目というとても古い窯になります。それにもかかわらず肥前吉田の知名度は近隣の有田や波佐見と比べ圧倒的に低いというのが現状です。
有田焼は絵付け、波佐見焼は普段使いの雑器という“様式”=“ブランド”が確立されていますが、歴史は古いにもかかわらず肥前吉田にはその様式がありません。ですがその点をポジティブに捉えると、まっさらな状態なのでこれから自由に様式を作っていけるということでもあります。そこで2012年に窯元の諭さんを中心にプロダクトデザイナーである馬渕晃さんと五島が参加して、肥前吉田焼のブランドとして224porcelainを立ち上げ肥前吉田の焼き物を発信しています。できるだけ多くの人の手に224の器たちを届けるため、五八からも224の商品の販路の開拓をお手伝いしています。もうすぐ224も立ち上げから4年になろうとしていますが、少しずつですが「有田焼や波佐見焼とは違う何か」が見えてこようとしています。まだまだ手探りですが、肥前吉田焼を知ってもらうために何が生まれてくるか楽しみながら進んでいこうと思います。
さて、ここからは224の商品の紹介をしていきます。
辻さんと初めて共同で開発したシリーズです。お茶処でもあり温泉地でもある嬉野の土地柄もあり、ストレートにお客様を迎えるためのお茶の器を作ろうということでスタートしました。湯呑と菓子皿からはじまり、今では急須と切立も加わり少しずつシリーズも広がってきました。カップは湯呑としては小ぶりのデミタスカップサイズのカップになりますが、おいしい煎茶を飲んで頂けるサイズとして小さめにしています。急須と土瓶は茶葉が広がりやすいよう口が広く高さが低い形状にするなど、お茶をおいしく飲んでもらうための道具として拘った茶器です。汚れの付きやすい口や蓋の縁部分に撥水加工を施し汚れを付きにくく落ちやすいようになっています。また口が広いため内側の掃除も楽にできます。
SUIの開発が始まってしばらく経ったころ、東京都内の書店と『本屋で展示会形式で本のための家具や雑貨を各々作って販売する』というイベントを他のクリエーターさん達と一緒に企画しました。「本屋さんには本が好きな人が集まるから、本のために何かしてあげられるものを作ろう。」と思い立ち、『本のために殺風景な本棚に花を飾る花瓶』というコンセプトで はなぶんこ をデザインして辻さんに相談しました。予算が無かったので、実家から一週間ほど有田の窯業技術センターに通って辻さんのアドバイスを受けながら自分で石膏の原型を作ったりしました。沢山ある工程のほんの一部を自分でやっただけで実際はほぼ辻さんにやってもらったわけですが、当時はパッケージも自分で手作りしていたこともあって、イベントで一つ売れていくたびに大喜びしていたのが懐かしいですね。
今では一般的になった“本屋で雑貨を売る”という形態ですが、当時は本の売り上げが落ち始め危機感はあるもののどうしていけばいいか模索している時期でした。そのため、1回の予定の展示会でしたが、書店をはじめ、本のイベントやミュージアムショップなどからも依頼があり巡回展として1年間いろいろなところで見ていただくことができました。その当時、プライベートで製作して販売していたはなぶんこですが、224立ち上げに伴って224の商品ラインナップに加わり現在に至っています。そういった経緯もあり、五八の商品の中でも非常に思い入れがあって気に入っている商品のひとつでもあります。
有田や波佐見など長崎・佐賀に広がる陶磁器産地を大きくひとつにまとめて肥前地区と呼びますが、そこに224のある肥前吉田も含まれます。それぞれの産地はライバルでありながらも地理的に近いため、個々の企業には協力関係もあります。Caffé hatは一見すると穴のない円錐型のフィルターが特徴のコーヒードリッパーですが、そのドリッパーは有田のユニークなセラミック素材をつくっている窯元さんが開発した多孔質の磁器を使用しています。このように他の窯元さんの技術や素材を使わせてもらうこともあれば、生地や型は生地を作ることに特化した生地屋さんやそれに使う型をつくる型屋さんなど他の産地の腕のいい職人さんにお願いして作ってもらったりもしています。そしてお互いにライバルとして切磋琢磨して腕を磨くなかから、他の産地にはない面白い技術や素材も生まれてきます。
Caffé hatの多孔質性磁器もそんな面白い素材のひとつですが、まだまだその用途は未知数です。Caffé hatとは違った使い方をしているのがアロマディフューザーの『Fragarance Pot』。Caffé hatのろ過する機能に対して、こちらは液体を吸い上げる毛細管現象を利用してポットの中に入れたオイルを吸い上げて香りを空間に拡散させます。まだまだ使い方は他にもあるのではないかと思いますが、何が出てくるかは乞うご期待です。
このように224では、ちょっと詩的なもの、変わったもの、クスッと笑いを誘うもの、食事をおいしくきれいに見せてくれるものなど、生活にほんのちょっとの潤いを与えられるようなものづくりをしています。まだまだ手探りで発展途上ですが、肥前吉田発のブランドとして模索していきますので、五八共々応援していただけるととてもうれしく思います。
また、余談ですが224をもっと理解していただけるよう、昨年、嬉野の温泉街に224のショップをオープンし、224の食器で嬉野茶とお菓子を楽しんでいただける喫茶店『224saryo』も頑張って運営しています。もしお時間がありましたら嬉野に足を延ばして見てください。
どうぞよろしくお願いいたします。
References & Thanks to
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1月19日公開
五八PRODUCTSでも多くの商品を扱っている、肥前吉田の陶磁器ブランド「224porcelain(ニー・ニー・ヨン・ポーセリン)」。シンプルだけど機能的なテーブルウェアのSUIシリーズ、本棚に彩りを添えるはなぶんこ、ペーパーフィルターのいらないコーヒードリッパー「Caffé hat」など、五八と共同開発した商品を紹介します。
3
2月16日公開
国産うちわの約90%を生産する香川県丸亀市。江戸時代から受け継がれる伝統技術に、五八PRODUCTSの新しい解釈を加えて生まれた「丸亀うちわ Ojigi」は、首をかしげておじぎをしているように見える愛らしい形が特徴です。
4
3月15日公開
まるで箱入りキャラメルのようなかわいい石鹸『旅する石鹸』。形にも品質にもパッケージにもしっかりと意味があるのです。企画先行型のモノづくりは、五八プロダクツの新しい可能性を感じさせてくれます。
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4月19日公開
大正時代に長野県で農業閑散期の産業として生まれた「農民美術」。戦後の復興とともに再び復活したこの運動は現在でも地域の作り手の皆さんによって受け継がれています。この長野県農民美術と五八プロダクツの出会いのきっかけとなった木端人形「雪ん子」。その値段には思わず膝を打つ「根拠」がありました。
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5月24日公開
2016年で活動5周年を迎える五八PRODUCTS。産地との関係を重視して、あえて「デザイナー」ではなく「問屋」であることを選んだことの意味を、今改めて見つめ直しています。若い世代に日本の物づくりの素晴らしさを伝えていくために、産地や作り手の人々と消費者の間で五島さんと八木沼さんの挑戦は続きます。